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健康づくり

夏におこりやすい重症感染症

消化器内科 渡辺 芳子

はじめに

ビブリオ・バルニフィカス感染症は死亡率の高い病気として知られています。暖かい海水中や、エビ、シャク(シャコとも呼ばれる)などに多く、これらの摂取や、皮膚の傷などから感染します。免疫力のおちた人にかかりやすいといわれています。肝硬変や、アルコール性肝障害、アルコール依存症、糖尿病などの患者さんの発症が多くみられます。また、貧血などで鉄剤を服用している患者さんも要注意です。発症時期は7、8月の夏場がピークで、全国では熊本県が最も多くなっています。

代表症例(60歳代の男性)

既往歴:高血圧あり。アルコールを多く飲んでいた。
現病歴:発熱、頻回の嘔吐が数回みられ入院。便は軟便の状態であった。最近生魚などは摂取していない。最近海には行っていなかった。
入院時所見:意識清明、血圧正常、理学的所見では異常所見を認めなかった。
検査所見:血液検査で、白血球上昇、CRPは軽度上昇。GOT、LDH軽度上昇。他は特記すべき異常所見なし。腹部エコーも正常であった。

入院後経過:急性胃腸炎として、輸液、抗生物質の投与を開始した。しかし、入院当日より徐々に血圧が低下し、呼吸状態も悪化した。昇圧剤、酸素投与を開始した。手足に10cm程の楕円形の紅斑が数箇所出現してきた。皮疹は同心円上に少しずつ増大し、中央は紫斑になっていった。血液生化学検査データは急激に悪化し、腎不全、DIC、心不全などが出現した。急激に悪化する臨床症状、皮疹などより、ビブリオ・バルニフィカス感染症を疑い、抗生剤、グロブリン投与、エンドトキシン吸着を施行したが効果なく、発症3日目に死亡された。皮膚病変から採取しておいた細菌培養で、ビブリオ・バルニフィカスが検出された。

症状

初発症状はたいてい紅斑型で、全身に拡大する過程において紫斑や水疱を生じます。
病型は、以下の3型に分類されます。

  • ・魚介類の生食による敗血症型(68%)
  • ・創部から感染する創傷型(21%)
  • ・消化器症状を呈する消化器型(5%)

 

皮疹は4型に分類されます。

  • ・紅斑
  • ・紫斑型
  • ・水疱、血疱型
  • ・潰瘍型

 

治療

抗生物質は、カルバペネム系とミノサイクリンの併用が推奨されています。
補助療法としてグロブリン大量療法、CHDFも有効とされています。

転帰

血圧が低下した患者は90%以上が死亡、敗血症型の70%が死亡しています。
皮疹の面積が大きいほど、またCK値が高いほど予後不良とのことです。
感染のリスクのある患者さんは、生の海産物を食べないよう注意が必要です。
皮膚に傷がある場合には、海や河口辺で感染しないように注意を促す必要があります。
皮膚病変をみたら早期に疑いをもち、迅速に対応していくことが救命につながります。

参考文献

1)日本におけるVibrio vulnificus感染症の発生状況について
  1999~2003年の全国アンケート調査を中心に
  井上雄二(熊本大学大学院・皮膚機能病態学),福島聡,木下順弘,小野友道:
  臨床と微生物32巻2号 Page208(2005.03)

2)外傷性Vibrio vulnificus感染症
  井上雄二(熊本大学 大学院皮膚機能病態学教室), 三宅大我, 藤澤明彦,
  宮坂次郎, 甲木和子, 小野友道:
  皮膚病診療26巻10号 Page1289-1292(2004.10)

3)有明海干潟汚泥,海水,魚介類中Vibrio vulnificusの季節別生息状況
  木下千恵 (久留米大学医学部附属病院臨床検査部), 堀田吏乃,
  橋本好司, 近藤正治, 松枝智子, 佐川公矯:
  臨床病理52巻7号 Page580-586(2004.07)