脳神経外科 不破 功
高齢者頭部外傷の特徴
・高齢者では転落、転倒事故が多くみられます。自宅や自宅周囲、施設での事故が多くみられています。もともと足腰が弱く、まやバランス感覚の乏しくなった高齢者では転倒がおこりやすい状況にあります。
・薬物(降圧剤、鎮静剤など)による血圧低下も転倒事故の原因となりますので、薬物療法開始時には注意が必要です。
・比較的軽微な外傷(転倒など)で、重篤な硬膜下血腫を形成する場合があります。特に、心臓疾患などで抗凝固療法(ワーファリン)や抗血小板凝集阻害剤(アスピリンなど)を服用している高齢者では、止血機構が作用せず、重篤な頭蓋内出血をきします。
・夜間の排便、排尿コントロールがうまくできず、ベッドやトイレ周辺での転倒事故がおこることも少なからずあります。
・転倒時の防御反応も鈍く、強い外力が頭部に直接作用しがちです。
急性硬膜下血腫の頭部CT
転倒事故による脳挫傷の頭部CT
頭部外傷の誘因となりやすい疾患
- ・脳血管障害、パーキンソン病などの運動障害
- ・動脈硬化、起立性低血圧などによる脳循環障害
- ・心臓疾患、不整脈など
- ・脊柱菅狭窄、関節リュウマチ、関節炎などの整形外科疾患
- ・白内障などの視力障害
Post-fall syndrome(転倒後症候群)
・高齢者頭部外傷は健康悪化の悪循環の引きがねとなります
・一旦、頭部外傷による脳損傷がおこると高齢者では代償能力に乏しく、痴呆や日常生活能力の低下を招きます。
活動性の低下、運動能力、筋力の低下は、健康障害につながります。
・活動能力低下は、高齢者の自信喪失にもつながります。
・更には、運動能力低下、筋力低下が頭部外傷を繰り返すことになります。
・このような悪循環をPost-fall syndrome(転倒後症候群)といいます。
痴呆と頭部外傷
・老人にとって転倒と痴呆は密接な関係にあります。
・痴呆のある高齢者は転倒して頭部外傷を負い易く、また頭部外傷により痴呆も悪化します。
MRI検査で大脳白質に異常所見がある高齢者では、転倒頻度が高いという論文報告もあります。
・頻回の頭部外傷や広範囲な頭部外傷により痴呆が発生しやすくなり、"外傷性痴呆"と呼ばれます。
ベッドからの転落事故は致命的
・介護施設や病院のベッドからの転落事故は高齢者にとって重篤な脳損傷や致命的な硬膜下血腫を形成することがあります。
・入院直後で慣れないベッド生活を開始した時や、痴呆、失明などで周囲の状況把握が不十分な場合にベッド転落事故がおこりやすくなります。
脳萎縮が頭蓋内出血の増大を助長する
高齢者では脳萎縮があり、頭蓋と脳の間に間隙が発生しやすくなっています。
このような状態では、頭部外傷によるクモ膜の断裂で硬膜下水腫をきたしたり、あるいは脳表の血管(橋静脈)の断裂で、硬膜下血腫を形成しやすくなります。軽微な外傷による急性硬膜下血腫は、このような老人脳の特徴により発生すると考えられています。
慢性硬膜下血腫
やはり脳萎縮を基盤に発生します。高齢者が頭部外傷を受傷後1-3ケ月後に症状が出現します。
頭痛、もの忘れなどの痴呆症状、片麻痺などが出現し脳梗塞など脳血管障害似たような症状もみられます。
診断には頭部CT検査が必要です。簡単な手術で軽快します。
転倒予防処置
・家庭や施設などでの段差、寝室の場所などに配慮が必要です。階段を利用することはできれば避けたほうが安全です。
・ベッドより畳での就寝をおすすめします。
・風呂場などすべる危険性のある場所には手すりをつける配慮も必要です。
・不適当な照明も事故につながります。
病院などの入院施設では、患者さんの転倒リスクを把握して、あらかじめ転倒事故を予防する心がけが重要です。
当院看護科では、転倒転落スコアを作成して危険度の把握に努めています。
転倒・転落スコア(荒尾市立 有明医療センター看護科)
年齢 | 70歳以上 | 2点 |
---|---|---|
性別 | 男性 | 1点 |
既往歴 | 転倒転落、失神 | 2点 |
感覚 | 視力障害、聴力障害 | 1点 |
機能障害 | 麻痺、しびれ、骨関節異常 | 3点 |
活動 | 足腰の弱り、筋力低下、車椅子、歩行器、杖、ふらつき、寝たきり | 3点 |
認識力 | 見当識障害、意識障害、痴呆 | 4点 |
薬剤 | 鎮痛剤、睡眠剤、安定剤、抗パ剤、降圧剤、化学療法中 | 各1点 |
排泄 | 失禁、頻尿、トイレ介助、留置カテ、夜間トイレ、トイレまで遠い | 各2点 |
【合計スコア】 | 【危険度分類】 |
---|---|
16点~ | 危険度3 |
6-15点 | 危険度2 |
0-5点 | 危険度1 |
【連絡先】
荒尾市立 有明医療センター 脳神経外科 不破 功(ふわ いさお)
TEL[代表]:0968-63-1115 脳神経センター外来
メールアドレス:ifuwa@hospital.arao.kumamoto.jp