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健康づくり

水辺の事故について

臨床研修医 田畑 輝海

水辺の事故には、溺水やクラゲ、エイなどによる刺傷、熱中症などが思い浮かびますが、今回は溺水について書こうと思います。

まず、最初に頭にいれて頂きたいのは、冷静になり自分の身の安全を確保するのが最も大事だということです。僕ら医師や救急隊員、救助隊員が現場に向かう時に最初に教わるのが、自分の安全確保を第一にするということです。自分自身が危険にさらされれば、助けられる人も助けられなくなるばかりではなく、自分の命や自分を助けようとする他の人の命まで危険にさらすことになります。溺れている人の具体的な救助の方法について、僕は素人なので詳しくはお書きできません。気になる方は消防署のホームページ等をご覧ください。

ここでは、医師の立場から、救助して安全な場所に移動してからの処置の方法などをお書きしようと思います。ここでも前に書いたとおり、冷静になり、自分の身を守ることを第一に考えましょう。

溺水の方の亡くなる原因の多くは、水を飲んでしまって呼吸ができず、血液中に酸素が行かない状態で心臓が止まってしまうことにあります。まずやって頂きたいのは、水を飲んでいる場合は体を横にし、水をできるだけ吐かせることです。それと同時に、周りの人に救急車や応援を呼んでもらってください。AEDが近くにある場合はAEDも持ってきてもらうといいかもしれません。ただ、後で説明しますが、水辺の事故の場合、AEDが使える機会は少ないかもしれません。ただ、今AEDは優秀で使えるか使えないかを自分できちんと判断してくれます。

水をできるだけ吐かせることができたら、意識を確認して下さい。意識がなく、脈が確実にあると判断できない場合は、気道を確保し、心臓マッサージ(胸骨圧迫)を開始してください。気道確保は基本的には、頭部後屈、顎先挙上と言われますが、水辺(特にプールの場合)は飛込みなどで頚椎を損傷している場合もあるので、その可能性がある場合下顎挙上が良いと思われます。
心臓マッサージは、乳頭(おっぱい)を結んだ線の中心で、5cm以上胸が沈むように(かなり力が要ります!)、1分間に100回以上行ってください。学生時代、SMAPの「世界に一つだけの花」のリズムで丁度いいと教わりました。また、押した後必ず元に戻すということも大切です。続けて押してしまうと、押し出した血液が心臓に戻ってこられなくなります。
この辺のやり方については、やはり訓練してみないといきなりはできないものです。様々な場所で講習会等が行われています。是非参加してみてください。やってみれば、そんなに難しいものではありません。救急車が到着するまでの時間というのはとても大事で、僕ら医師が病院でいくら頑張っても現場で最初に心臓マッサージなどをする程効果的な治療をすることはできません。是非、市民の皆さん全員ができるようになって欲しいと思っています。

ここからは少し専門的な話になりますので、軽く読み流してくださっても結構です。心臓が止まるパターンには主に3つあり、不整脈であるVT/VF、電気的には正常だが心臓が動いていないPEA、電気的にも止まっているA-systoleとなっています。このうちAEDが使えるのは最初のVT/VFのみです。実は水辺の事故では酸素が足りない状態で心臓が止まることが多く、2つ目のPEAの状態が多いと言われています。

新しい心肺蘇生のガイドラインでは、現場では胸骨圧迫が最優先で、人工呼吸はしなくても良いということになっていますが、溺水の方については、酸素が足りない状態で心臓が止まっている可能性が高いので、感染防御(講習会などでもらえる、ハンカチのような一方弁などを使う、もしくは自分の家族などで感染症にかかっていないとはっきりわかる場合)ができれば、できるだけ人工呼吸を行ってもらった方が救命の可能性は高くなると思います。その際は胸骨圧迫30回して次2回人工呼吸というサイクルを繰り返してください。これも講習会などで練習すれば難しくないと思います。

最後にAEDの使用についてですが、上に書いたように、溺水ではAEDを使える機会は少ないと思いますが、可能性がないわけではないのでここに書いておきます。AEDの使い方は講習会などで教わるとして、水辺で使う場合の注意点を述べておきたいと思います。

AEDは電気的に心臓を再起動させる装置です。エネルギー的には150J位なので、電圧で言うと数千Vになると思います。健康な人に行えば、その人の心臓が止まります。なので、ここでも、最初に書いたように、自分の身を守るのが一番大事です。講習会などでは、誰も電気ショックを行う人には触らないようにということは何度も言われるので覚えて帰られる方が多いと思いますが、濡れている人は必ず本人とまわりを拭いてから使ってくださいということは覚えていない、もしくははっきり習わない方も多いと思います。特に海辺の場合は食塩水なので電気をよく通します。
患者に触ってなくてもまわりの人が感電して心臓が止まったという事例は海外で報告されているようです。そうならないように、使い方をきちんと学んでから使いましょう。また、万が一感電した人がいる場合、AEDが1台しかない場合は感電した人に使いましょう。救急の世界では助けを必要とし、助けられる人から助けるという原則があります。感電して心臓が止まった人の方が溺水、もしくは他の原因で心臓が止まった人より救命できる確率は確実に大きいです。

以上をまとめますと、溺れている人がいたら:

  1. まず自分の安全を確保し、落ち着く。
  2. 周囲の助けを呼ぶ。(救急車なども!)
  3. 救助する。
  4. 意識、脈を確認する。
  5. 意識、脈がない場合、体を横にして水をできるだけ吐き出させる。
  6. 気道を確保し心臓マッサージを開始する。
    (感染防御ができているならば、心臓マッサージと人工呼吸を30対2で!)
  7. 必要ならばAEDを使用する。(濡れている人は必ず本人とまわりを拭いて!)

色々と書きましたが、本当は事故がないことが一番です。これから水辺で遊ばれることも多くなると思いますが、くれぐれも注意して遊んでください。それでは皆さん素晴らしい夏をお過ごしください。