脳神経外科 濵﨑 清利
今回は脳出血についてお話したいと思います。脳出血は『脳卒中』の一病型です。『卒中』とは、『卒然として(急に)中(あた)る』という意味です。英語ではstrokeと言いますが、これを英英辞書で引くと『見えない神の手による一撃』という表現が含まれています。昔の人は、突然おこる麻痺や意識障害を神による罰のように感じていたのかもしれません。
これを読んでいる皆さんの中に高血圧の方がいらっしゃるでしょうか。脳出血は、昔は「脳溢血」と呼ばれ、致死率は70%と高く、高塩分の食事を摂る日本人の脳卒中の大部分を占めていました。つまり、脳出血の原因は70-80%が高血圧によるものということです。脳出血を生じると脳は損傷を受けます。損傷を受けた部位の機能は失われ、麻痺や言語障害という形で後遺症が残ります。それは脳が再生できない臓器だからです。
第二次世界大戦後、朝鮮戦争を機に日本は豊かな国へ変貌します。降圧剤を服用できる人たちが増え、高血圧はコントロールされるようになりました。その成果あり、現在は右肩下がりで脳出血発症数が減少しています。しかし、ゼロにはなっていません。では何故でしょうか?それは、高血圧治療が不完全であることと日本の食事の変化が深く関わっています。日本は高温・多湿の夏が特徴ですが、そのため、保存技術が未熟な戦前は、塩による食品の加工(漬け物、干物等)により食料を保存する文化を有していました。そのため、日本人は平均10g/日以上の塩分を摂取していたようです。塩分を日本人ほど摂取する国民は稀です。塩分摂取が少ない国では3-5g/日の塩分で生活しているようです。
塩分は、体内に吸収され腎臓より排泄される訳ですが、塩分量が過多になると水分を体内に貯留させ、血液中の濃度を一定にしようとします。そのため、血管内の圧が高まり高血圧となるわけです。血圧はそれだけでは規定されませんが、生活が原因による高血圧が多い中、塩分制限が高血圧治療には重要です。しかし、現代人は高塩分の料理を好む傾向にあり、降圧剤を服用しているからと塩分制限を行わず生活を続けている現状にあります。
コンビニの普及もそれに拍車をかけています。皆さんもコンビニ弁当を食べることがあるでしょう。コンビニの弁当は味が濃いですよね。塩分量を気にしていますか?是非、塩分量を確認されることです。塩だけを口に含むと、人は不快を感じますが、調理に使用されるとそれを感じません。焼き鳥などは、多量の塩を使用しなければおいしく焼けないかもしれませんが、実は焼き鳥だけでは焼き鳥屋さんは利益が少なく、ビール等の飲料により収益を得るのです。そうすると、たくさん飲んでもらった方が儲けるわけですから、自然とビールの注文が増えるように塩味を濃くします。居酒屋、ファミレス、コンビニでも同様のことが言えるでしょう。
外食産業は不景気の煽りを受けて冷え込んでいます。すると、食事メニュー等を安くして人が食事に来る様に仕向けるしかありません。食事メニューを安くするのには限界があります。その上で収益を得るためには、先ほどの理屈の通りです。塩分摂取が外食により加速するかもしれません。塩分は食塩からだけ摂取する訳ではなく、食材にも含まれています。そのことも忘れてはいけません。
降圧治療は他力本願(降圧剤の服用)だけではうまくいかず、将来的に降圧剤の増量、一生やめられないという悪循環に陥ります。そうすると、人は降圧剤の服用を避け、努力をせずに生活し、脳出血を起こして突然障害を負ってしまう訳です。突然起こるので、本人も家族も病気のことを受け入れられません。生活が悪かったために起きた病気も他人のせいにしてしまいがちです。脳出血の危険因子として、過度の飲酒・喫煙・糖尿病等があります。これらも生活習慣と関わっていることですね(なので、高血圧・糖尿病・脂質異常症・メタボリックシンドロームなどを生活習慣病と呼ぶのです)。脳出血は、高血圧をコントロールすることで、その発症率を半分以下にすることができます。その他の疾患では、このように単一の要素で良好にコントロールできる病気はありません。高血圧を治療するだけで、幸せな人生を送れる可能性が上がるというわけです。安易なサプリメントに手を出して血圧を下げようとは思わず、医師に相談し、正しい知識を得ていくほうが賢い方法です。受診すると、時間を取られて損した気分になるのは日本人の悪い考え方かもしれません。ちょっと考え方のベクトルを変えて、薬を飲むために知識を得たから良かったとプラス思考をしていくことが精神にも良く働き、きっと身体も良くなっていくことでしょう。
今回は『脳出血』をテーマに少し述べましたが、これは医学の一側面からの話です。すべてを物語るものではありません。誤解のないようお願いします。機会があれば、次回は『脳梗塞』についてお話をすることとしましょう。