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健康づくり

高齢者の身体と転倒事故

リハビリテーション科 理学療法士 日野 賢司

はじめに

身の回りに発生する数々の事故には、色々な発生の原因がありますが、皆様何を思い浮かべられるでしょうか。実に身近な事故でしかも一旦起こってしまうと大変厄介なのが「こける」「しりもちをつく」「つまずき倒れる」などの転倒事故です。
これは老年症候群の一つとしてとらえられ高齢者死亡原因の上位に位置します。転倒の発生は、生活活動を著しく低下させ、寝たきりをつくる直接的原因と言われ、高齢者にとって大変なことになりかねません。
特に高齢者の身体には転倒しやすい理由がありますので是非ともお気を付け頂きたいところです。「今回の健康管理」はそうした転倒事故に注目してご紹介致します。

身体機能の加齢的変化

身体の中では感覚系、視覚系、神経系、筋骨格系、バラン機能、高次神経系など多くの機能低下を起こします。身体に分布する感覚受容器(刺激を感じ取るセンサー)の数の減少はもとより、その感覚を脳に伝える速度も遅くなり、ここだけをとっても明らかに歩行やバランスに影響を及ぼします。
また、視覚系の変化としましては10歳では9cmのところに焦点を合わせることが出来るのに対し、60歳では84cmのところで焦点が合うといった報告があります。
また光の透過性は80歳で20%、青、黄色の知覚も低下するといった特徴があるそうです。
一方、睡眠パターンの変化としましては、眠りに落ちるまでのの時間が長い、夜間に目覚める、深い眠りの層が短くなるなどで、日中覚醒時の活動が少なくなり、身体を動かす筋肉は蛋白の合成率じたいが低下し、特に手足の素早い収縮を必要とする筋肉ほど萎縮が目立つようになります。
脳の中では短期記憶の低下、学習能力の低下、情報処理や保持、環境条件に対応する応答性の低下などがあります。辛い内容ばかりが並んでしまいましたが、加齢とともに誰もが向かう道です。

転倒者の特徴

男性よりも女性にやや多い傾向、日本人より欧米人に多い傾向、めまい、歩行不安定、バランス障害、記憶・判断力障害、筋力低下・麻痺、転倒既往者、車椅子使用者(乗り移り時など)加療のため薬物療法中の方などです。

転倒の起こる瞬間

大きな段差は意識しやすいものですが、無意識にも越えられそうな小さな段差を越える時。床の物を拾おうとした時。無理な姿勢で、洗濯物を取ろうと手を伸ばした時。夜中にトイレへ行く時など暗い状況で動く時。
電話のベルを聴いて、慌てて動いた時。バスに乗ろうとステップに片足上げた時、突風にあおられて。歩行中、犬に吠えられた時。部屋の模様替えをした後日など、転倒に到った方々の瞬間は様々です。
総じて何かの課題を遂行しようとする時や予測に反する環境に遭遇した時、或いは自らの身体機能を過信している時に発生しているようです。

転倒後の悲しい現実

僅かな外力で骨折を起こしてしまう高齢者の骨。
大腿骨頚部骨折(足のつけね)、脊椎圧迫骨折(背骨)などがありますが入院治療、手術や安静による全身の機能低下、ご家族との隔たり、痴呆の出現などの悲しい現実があります。
たとえ外傷を免れても日常生活上の不安や恐怖から活動性の低下を招くことも考えられます。
股関節の骨折1 股関節の骨折2

年齢

加齢的変化を受け入れて、1日の行動パターンを再確認し、身体機能の過信をしない。
家屋の中を再確認(小さな段差、カーペットの厚みや材質、椅子の高さや特徴、照明の強さ、手すりの設置や形状など)照明は若年者向け照明度基準の1.5~2倍が理想、リモコンスイッチやホタルスイッチも有効です。
フローリングと同系色の家具や椅子は要注意、テーブルの縁を濃い色でエッジングするのも良いでしょう。

もし、リフォームをお考えでしたら廊下や部屋の巾木の色は床と壁の境界を分かりやすく工夫されても良いかと思います。
履き物を再確認。転倒者の4割は履き物が関係(「つっかけ」を履いている際の転倒が多いとも言われます)普段から適度な運動で体力を維持し、また急な居住環境変化を避けるなどのことをお勧めします。
痴呆のある方の場合は、特に周囲の環境、服装なども注目点です。転倒の際に骨折の発生しやすい大腿骨頚部の外側(足のつけね外側)に挿入するパッドも市販されていますのでこうしたものを利用するのも1つの方法でしょう。
何より結果を予測してじっくり行動、今までの危なかった瞬間を想い起こしてみられては如何でしょうか。
 現在では、転倒危険因子の分析やその検討がなされ、多くの医療施設や福祉施設で転倒の予防策が図られています。